脱サラしてまで芸大に入ったわけ 【4】 入試にあたっての戦略

 
そういうわけで美大受験を決めました。
とはいえ、絵が描けるわけでもなく、「絵画」「塑像」「映像」などいわゆる芸術フォームにはいる作品実績も特に持っていなかった状態。
たとえば今から絵を書いたり何か作品を作る手段を習得したとして勝てる勝負になるわけがありません。今持っている武器は何で、どのように戦っていけば良いのか、を真剣に考える必要がありました。
今日は入試に臨むにあたって事前に組んでおいた戦略を思い出してみます。
 

 

◼︎強みを言語化する
 
先の投稿でも書いた通り、「デザイナになりたいけどPhotoshopわからないから無理だ・・・」などという風に、元々「手段を持たないこと」による壁をすごく作りがちな人間でした。でも、、重要なのは「実現したい絵」と「それを実現するための戦い方」であるということは、サラリーマン生活をしていて・単独公演で実感した所でした。
 
だとするならば、ゴールは何で、他の競合に勝てる部分はなんなのか。
 
まずゴール。合格です。合格するにはどんな能力が必要でどんな人材であるべきなのか。こちらは大学のHP、特にアドミッションポリシーを読み込みました。
なかなか難しい言葉で書いていますがまとめると、大学の役割は「時代に対して新しい価値を作っていける人材」を育成することで、学部・研究科ごとに「手段に対する自分なりの洞察とこだわりを持っている」ことがそこにいる研究者として重要なことだということが読み取れました。では、(考えてみれば当たり前のことではありますが)入学試験のゴールとしては「自分の持つ手段への自分なりの洞察を示し、価値を作っていける可能性を感じてもらうこと」になるわけです。
 
ゴールが決まれば次は現状把握と競合との差分です。
 
現状、自分の持つ手段に関してはジャグリングというちょっと変な手段しかなかったのですが、そもそも最初からそういった「ジャンルの壁にはまらないもの」が歓迎されそうな学部を狙っていました。だからといってオールクリアというわけではないので、ジャグリングがアートフォームとして価値を作っていける可能性、ジャグリングで得た視点が既存のアートに対しての批判になるのか、については自分なりの解釈を用意しておきました。(ここに関してはかなり長くなりそうなのでまた別の機会にかけたらいいなと思っています)
 
自分は美術系教育のバックグラウンドが一切ない、という所が他の美術系大学出身者に比べて大きくビハインドしている部分だと感じていましたが裏を返せば「総合大学で学んできたこと」「社会人をやっていたこと」は彼らにはない強みになりえます。その強みというのは具体的にどういった能力なのか。それも、「作品を通じて価値を作る」という場面においてどのように発揮できるのか。これは、単独公演をやっていたおかげで言語化はすでにできていました。
 
 
・説明能力、プレゼン能力
 
どこかの週報で書きましたが「何を作るか」と同じくらい「どう見てもらうか」は重要です。前情報や伝え方によって作品自体が変わらなくてもお客さんが受け取る価値が全く変わってきます。単独公演LOSTSCAPEでは、A4一枚にびっしりリードテキストを書きました。
 
 
これのおかげで、自分がやったなかでも今までにないほど作品のメッセージの部分に関するコメントを多くいただけました。ジャグリングの技術自体に対する言及は逆にほぼなかったくらい。視点を共有することの重要性はものすごく実感していたところです。
 
加えて、文章を書くことや、人前で話すこと、そして人と打ち解けることは会社で叩き込まれてきていたので、この「視点の設定」のための説明を行う能力はおそらく自分の大きな武器になるだろうと感じていました。
 
 
・工程の管理能力
 
こちらも単独公演を行って感じたことです。
人数が少ないのでパフォーマンスも撮影も制作も全部自分でやっていたのですが、制作をするというのはものすごくタスクが多く、また、映像を使ったショーでしたので撮影する素材の管理も行わなければいけない、プロジェクションが舞台の照明とどう干渉するのかといったテクニカルのテストも必要、、、となった時に、もう何作ればいいかわからないんですよね。
 
全てを課題化してリストとスケジュールにして管理をするようにしなければ追いつきませんでした。途中までは本当に今どれくらいの完成度なのか不安で仕方なかったのですが、日次でしっかり管理していくと進んでいても遅れていても安心できます。見える状態にしておけば指示をする際にもわかりやすい。おかげで最後はしっかり持ち直し、余裕を持って完成し、クオリティをあげる足し込みまでできるようになりました。
村上隆さんのカイカイキキではかなり詳細にガントチャートを作っているらしいです。)
 
どちらも会社員をやっている中で得た能力です。
余談ですが、面白かったのが、「何かしらそれを使って成功体験を持ち、言語化しないと能力として認識できない」ということで、単独公演をやって入試に臨む、ということがなければこのように自分にその能力があるというのを認識することはなかっただろうという点でした。
 
なので、「自分の持つ手段への自分なりの洞察を示し、価値を作っていける可能性を感じてもらう」ことができるのか、に対する僕の回答、つまり戦い方の姿勢としては「ジャグリングという手段への洞察は十分に用意できている。また、価値そのものを作る力では今は劣っているかもしれないが、価値を運用する能力は他の方に比べて大きく強みであり、今までの経験からもビジョンを描くことはできるので、ここで学ばせていただければかなり可能性はあるはずだ。」という形になります。
 
 
◼︎作品の作り方をテンプレート化する
 
入試は基本的に実技+面接です。
 
実技は造形や映像になってきてしまうので、面接で上に書いた姿勢を100%示すことが、自分の勝負の最大値だと思っていました。それで落ちたらもう諦めるしかない。
なので、入試までにスケジュールを組んで自分が言えることの言語化を徹底的にしていきました。ポートフォリオを元に聞かれるのは予想できていたので、自分の作品から始まって「この子は価値を作ることができる」と感じさせられるようなエピソードを3個くらいずつ、全てブログのエントリのように簡単にまとめて用意しておく作戦をとりました。
また、セミナーの講師をやっていたので、「一回絶対笑いをとるぞ」というのは決めていました。
 
問題は実技です。面接が仮に最高の出来だとしても、実技が0点では受かりようもありません。
自分の手で何か「もの」を作ることなんて学校の図工の時間ぐらいだった僕は最悪「なにもつくれない」という展開すらあるという危機感を感じていました。
 
なら、もう作り方を決めてしまっておこう、と。
関数のように、そのシステムに放り込めば作品が出てくる、といったような「作り方の型」を決めてしまおう、と思いました。
 
その型を作る過程もかなり紆余曲折ありましたが、最初は普段美術館に行って作品を見て、その作品の意図をトレースするのを逆再生すればいいいんじゃないのかな、というところから、加えて「連想したり頭の中で繋げて行くことが得意」「とにかく意味を分解したがる」という自覚していた考え方の癖があったので、それに沿って「とにかくこう考え始めよう」を決めておくことにしました。
 
① まず与えられた課題のキーワードを設定する
② そのキーワードから連想されることを30個書く
③ そこから気になった連想を「誰にどう感じさせたいのか」という形に変換する
④ それを再現する質感・形・動き・色・大きさを想像する
⑤ とりあえず作ってみる
⑥ あとは気合
 
例えば、病院の庭に設置する作品を作りましょう、となった時、①病院という場所の性質上「癒し」とかがキーワードになるかな、と考えられます。
②連想されるのは「ふんわり」「やわらかい」「太陽」など、とにかくなんでもいいので書いていき、③病院の庭なので患者さんや子供に暖かい気持ちになってほしいな、という狙いも生まれます。④そのためには、柔らかい素材で、色は白がいいな、、、、例えば羊とかどうだろう、と決まってきたあたりで少し具体的にモチーフを決め、とにかく手を動かしていくわけです。「柔らかさ」を表現するなら全部ゴムで作ってみるとか、毛をありえないぐらいの量にしてみる、とか、ベースの目指す部分がはっきりしていけばその加速すべき方向性もすぐにわかります。
 
こういう風に作り方を決めてしまうことの利点として
・何をやればいいのか迷っている時間、を無くせる=精神的にすごく安心する
・最後の状態から今どれくらいできているのか、の位置がわかる=時間配分を失敗しない
という風なところが非常に大きいです。
 
また、「最後は気合」とは書きましたが、しっかり指針を決めてとりあえず作り始めてみると「指針通りにやるためにはここはこうした方がいい」「最初はこう思っていたけど形的にこうじゃないな」と、決めた指針と目の前に生まれる形とをフィードバックさせあって完成を目指すことができるのでここまでくれば意外と大丈夫になるだろうという予測も立っていました。
(これは普段から僕が美術館などで作品を見て、その作られた意図や背景を考えるのが好きだったり、連想ゲームが得意だったという特質があったからできたことで、この型をそのまま他の人に移植してもうまく作れるかどうかはわかりません。)
 
 
ポートフォリオの作成作業も大変でしたが、「入試の日」を迎えるにあたって用意していった作戦は大きくこの2つでした。
それが実際に合格を勝ち取ることに対して功を奏したのかどうかは今もまだわかりませんが、自分が自信を持ってその日を迎えられたという部分に関しては絶大な効果がありました。
 
考えてみると就職面接とそう変わらないすごく当たり前のことだなあ、と思ったりもしますね・・・。
どんな絵が書きたいとか、どんな作品を作りたいとか、作品を作る手段の話が一切出てこない。。。手段のメンタルブロックにとらわれていた自分を懐かしく思いつつ、何はともあれ、僕はまず1校目の入試の日を迎えたわけです。